made in Yokohama
ものづくりインタビューVol.1 開放特許を利用した商品開発事例

株式会社横浜ベイサイドネット 編

株式会社横浜ベイサイドネット 代表取締役 吉川かおり氏多くのものづくり中小企業では、優れた技術を保有しながらも、新しい製品開発や販路拡大を企画するノウハウやリソースが足りないという悩みを抱えています。
一方、研究開発機能を持つ大手企業を中心に、登録されている知的財産・特許のうち約半数は活用されていない状況です。そこで、大手企業が持つ開放特許を中小企業に紹介し、新しいものづくりを支援する地域ネットワークの活動が注目されています。
今回は、大手企業が持つ開放特許を利用して新商品の開発をされた「株式会社横浜ベイサイドネット(以下、横浜ベイサイドネット)」の吉川氏と西川氏、コーディネートを担当された公益財団法人横浜企業経営支援財団(以下、IDEC)の藤田氏にお話を伺いました。

取材にご協力頂いた企業さま
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はまリンク取材班 ものづくりインタビュー

  • 株式会社横浜ベイサイドネット 代表取締役 吉川かおり氏

    株式会社横浜ベイサイドネット
    代表取締役 吉川かおり氏
     
     

  • 株式会社横浜ベイサイドネット テクニカルマネージャー 西川常夫氏

    株式会社横浜ベイサイドネット
    テクニカルマネージャー 西川常夫氏
     
     

  • 公益財団法人 横浜企業経営支援財団 横浜ものづくりコーディネート事業 総合コーディネーター 藤田六朗氏

    公益財団法人
    横浜企業経営支援財団(IDEC)
    横浜ものづくりコーディネート事業
    総合コーディネーター 藤田六朗氏

本日はよろしくお願いします。
横浜ベイサイドネットさんは、最初どのような事業を始められたのですか?

吉川さん、西川さんインタビューの様子西川氏:
最初は、海外オーディオ部品の輸入販売のネットショップを立ち上げました。2004年当時は、海外スピーカーを日本で手に入れるのは難しかったので、ニッチなショップとして事業を始めました。その後、輸入スピーカーの音を聴きたいというお客さまの要望が出てきたこともあり、スピーカーの試作品を作って試聴できるようにしたところ、そのままその試作品を売って欲しいというリクエストをいただくようになりました。そこで、スピーカーのキット販売やオリジナルスピーカーの製造販売を始めました。

海外オーディオ部品のネットショップを起業されたきっかけは何だったのでしょうか?

スピーカーイメージ吉川氏:
この会社を立ち上げる前は、プラントの会社に勤めていました。ある時、趣味で個人的にスピーカーを買いたいと思い、以前の上司だった西川に何を買ったらいいのか相談したところ、自分で作ることができるという意外なアドバイスが返ってきました。西川は昔、オーディオに凝っていたことがあり、スピーカーを自作したことがあったのです。私は、オーディオマニアではなかったので、自分で作るなんて答えが返ってくるとは想像もしていませんでした。
インターネットでいろいろ調べてみると、国内では海外の部品はあまり手に入らないのですが、ネット注文やメール注文で、海外から取り寄せることができることが分かりました。仕事で海外とのやり取りをしていたこともあり、自分で海外に直接注文をして部品を取り寄せてスピーカーを作成したのが、この仕事を始めるきっかけになりました。西川も仕事が忙しくなってオーディオから離れていましたが、このことがきっかけで、俄然、昔のオーディオへの思いがよみがえってきたようでした。
自分が海外から取り寄せをしたことで、もしかしたら自分のように海外からオーディオ部品を取り寄せたいマニアがいるのではないかと思い、2003年8月にオンラインショップを立ち上げました。当時は会社勤めをしながらオンラインショップを立ち上げたので、会社から帰った後に梱包出荷作業などをしていました。

帰宅後にショップの作業をされていたのですね。大変だったのでは?

吉川氏:
立ち上げ当初は、そんなに注文も多くなかったので大丈夫でした。その後、だんだんと注文が増えてきて、片手間にできる仕事量ではなくなったので、2004年9月に有限会社横浜ベイサイドネットを設立し、事務所兼店舗を横浜市中区に開設しました。

ネットショップを運営されていく中で、輸入販売だけでなく、自社製品の開発をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

吉川氏:
ネットショップを立ち上げた2004年当時は、海外のオーディオ部品を扱うオンライショップはあまりありませんでしたが、インターネットが普及するにつれて、だんだんと同じようなショップが出始めたので、他社との差別化を図る必要が出てきました。オリジナリティのある製品を扱っていきたいという思いがあったので、アイデア探しのために、いろいろなイベントや企画に参加するようにしました。

それで、横浜市の開催するイベントに参加されるようになったのですね。行政の中小企業支援についての情報はどのようにして入手されていましたか?

吉川氏:
起業する前、ふと電車の中吊りで、財団法人横浜産業振興公社(現IDEC)が起業家セミナーを開催するというのを見かけて、参加したのがきっかけで、その後、いろいろな支援制度を利用しています。情報収集の一環で、大学生と企業のコラボ企画「デザインのちから展」に参加した際に、横浜市ものづくり支援課の方から「開放特許」について教えてもらい、富士通さんから直接、特許について説明してもらう機会を得て、「抗菌イヤーピース*1」の開発につながりました。それ以外にも、自社開発の「SSC-01(サウンドステージコンダクター)*2」は、2008年に「横浜市中小企業研究開発等助成」の認定を受けて開発しました。


*1 抗菌イヤーピース「クリーンピース」は、2013年度「神奈川なでしこブランド(KNB)」に認定されました。
*2 オーディオ機能をリアルタイムに高速処理するデジタルオーディオプロセッサー(ソフトウェア)です。


コーディネーターの藤田さんは、横浜ベイサイドネットの吉川さんと西川さんにお会いした時の印象はどんな感じでしたか?

藤田さんインタビューの様子藤田氏:
ものづくり支援というと町工場などのイメージが多い中、横浜ベイサイドネットさんは、輸入商品の販売と自社製品開発を行っており、ショップも持たれている。最初は少し変わった会社さんだなと思ってお会いしたところ、とても開発マインドのある良いものづくり企業さんだと感じました。

特許を使った商品開発は、最初はどのようなアイデアがあったのでしょうか?

吉川氏:
特許を使った商品開発をしようという話しになった時に、まず、コーディネーターの藤田さんが、富士通さんの特許の中から、オーディオに関連があって商品開発になるようなものをいくつかピックアップしてくださいました。
防振材の特許、ノイズキャンセリング特許など、技術的なものを使ったヘッドフォンの自社開発を検討しましたが、最初からやるには少しハードルが高かったです。
半年くらい富士通さん、コーディネーターの藤田さんとミーティングを続ける中で、チタンアパタイトの抗菌効果を使ったイヤーピースの開発を思いつきました。これは女性らしい発想でいいのではないかという話しになり、試作品製作に取りかかることになりました。

特許が決まってからの商品開発について富士通さん、コーディネーターの藤田さんとはどのような関係で進めていかれたのでしょうか?

吉川氏:
富士通さんは、イヤーピースの開発が決まってから製品化までずっとサポートしてくださいました。私たちがネットショップと実店舗の運営の傍らで商品開発しているところ、発破をかけながら応援してくださいました。

一番難しかったのはどのような点でしたか?

抗菌イヤーピース吉川氏:
イヤーピースの金型を作るかどうかをとても悩みました。自社で金型を作るとなると、製品に転嫁する価格を抑えるため、膨大なロット数で作らなければなりません。いろいろな方に相談しましたが、イヤホンの専門会社でもないのに金型を持つのはまだ早いということになり、汎用的なイヤーピースの金型を既に持っている企業さんを探すことになりました。でも、藤田さんにも協力していただき、お願いできる企業さんを探したのですが、なかなか見つからなかったのです。最終的には、富士通さんが探してくださった埼玉県の企業さんに、商品開発の趣旨をご理解頂き、比較的小ロットでの発注ができる状況が整いました。
あとはそう、パッケージなどデザインも難しかったですね。デザインやケースを何にするかなど、専門の方にお願いできたら手間がかからなかったと思うんですが、製品の形に成形するプラスチックケースのブリスターパックなどは凄く高いので、ネットで見つけた医療用の滅菌ケースを使用しています。中のスポンジも協力的に対応してくださる業者さんがいて、「イヤーピースの大きさで穴をあけて3色で作って欲しい。」とお願いして作ってもらいました。ケースへ詰める作業は、生活保護の方の自立支援をされている横浜市中央浩生館に作業をお願いしました。最後に台紙のデザインは自分で作り、台紙にシールでパックする業者さんもネットで探して対応していただきました。全て手作りで、ばたばたになりながら作りました。

最初から最後まで、アイデアがたくさん詰まっているのですね。

抗菌イヤーピース商品吉川氏:
はい。そうなんです。

藤田氏:
横浜市内のブリスターパックができる業者さんを紹介しましたが、予算が合いませんでした。最終的には、ベイサイドさんの全ての知恵と努力が詰まっているパッケージになっていますね。

特許を使用した商品開発は、アイデアのきっかけとして今後も活用されたいと思われますか?

吉川氏:
はい。まったく何もないところからの商品開発もいいと思いますが、イヤホンに限らず、眼鏡ケースなんかも抗菌効果があるといいなと思ったりしています。眼鏡をケースに入れている間に抗菌効果が発揮される、なんてアイデアもあると思うのです。そういう幅のある技術だと思っています。

正直なところ、特許に対して費用的な不安はありましたか?

吉川氏:
最初から一人で富士通さんと交渉ということだったら大変ですが、コーディネーターの方からの紹介でしたし、富士通さんもざっくばらんにお話いいただいて、「そんなに高くないですから、是非やってみてはどうですか」と言っていただいたので、安心して挑戦できました。

今後も特許を使った商品開発をされる予定はありますか?

吉川さんインタビューの様子吉川氏:
はい。現在、別の特許技術を使った商品開発を行っています。

今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

吉川氏:
10年オンラインショップをやってきた経験を活かす事業を立ち上げたいと思い、現在、準備をしているこころです。
インターネットが発展して大きなECサイトが出てきて、どこからでも商品を取り寄せられるようになりましたが、逆に人とのつながりや地元のつながりを重視した、ショッピングモールのニーズも出てきているように感じます。
抗菌イヤーピースを作ったことで、地域密着のショッピングモールを作って、「エコモノショップ」を作っていきたいと考えるようになりました。10年のオンラインショップのノウハウを、横浜のものづくりをしている企業さんと共有して、ショッピングモールを運営していく予定です。

今後、特許を活用しようと考えている中小企業へのアドバイスはありますか?

吉川氏:
何でも試してみるのがいいと思います。コーディネーターさんがいるので、相談しながら進めていると、思ってもみないところで出会いがあり、アイデアが出ることがあります。現に抗菌イヤーピースは、もともと防振材やノイズキャンセラーなどの特許で商品開発をしようと思っていたところ、先に製品化することになりました。人的なサポートを受けられるので、仮に商品化にならなくても、培ったノウハウは、人的にも技術的にも次に繋がりになります。

藤田さんは、総合コーディネーターとして、これから商品開発をしたいという中小企業さんにアドバイスはありますか?

藤田氏:
大企業さんの有償開放特許の技術シーズを含めて、コーディネーターは多くの企業さんからシーズ(情報)を集めていますが、ご紹介するには人的リソースとして限界があります。企業さんの方から是非、「こういうものを開発したいのだけど、何か良いアイデアはないか?」といった問いかけを気軽にコーディネーターにしてください。そうしたら、私たちの持つ情報を有効に使っていただくことができるかもしれません。話しをするのに費用は発生しません。是非、横浜市経済局ものづくり課やIDECを、皆さんの商品開発にフル活用してみてください。

富士通株式会社 知的財産権本部ビジネス開発部 部長 吾妻勝浩氏開放特許を提供された 富士通株式会社 知的財産権本部
ビジネス開発部 部長 吾妻勝浩氏よりコメントをいただきました。

横浜ベイサイドネット様の「クリーンピース」の開発に参加できた事は、当社に取りましても勉強になり楽しい仕事でした。打ち合わせで訪問させていただくと、常に心地よい音楽が店内に響いており、美味しいコーヒーをご馳走になった事を、昨日の事のように思い出します。「クリーンピース」が上市できたのは吉川様、西川様の「熱意」、関係者の皆様の「利他の心」が結集したからだと思っています。今後、横浜ベイサイドネット様の後に続く地域企業が増える事を心待ちにしております。

今回取材にご協力頂いた企業さま

横浜ベイサイドネットロゴ

企業概要
会社名: 株式会社横浜ベイサイドネット
代表者: 吉川かおり
所在地: 〒231-0041 横浜市中区吉田町72 サリュートビル701
電話番号: 045-315-2041
FAX番号: 045-315-2042
email: bsn-shop@baysidenet.jp(担当者: 西川)
ショップURL: www.baysidenet.jp
Facebook: www.facebook.com/baysidenet
事業内容:
  • 「ゆとり」と「くつろぎ」のある生活のための「お手伝い」をモットーに、オーディオ関連製品の輸入・製造・販売を主な事業とする。
  • 販売形態は「オンラインショップ」と「実店舗」を有機的に連動させたダイナミックな販売体制とする。オンラインショップは、将来英語版も作成し、今後オリジナル製品を世界中に向けて販売して行く予定。実店舗では、DIYユーザー層に限定せず、幅広いオーディオファンを対象に、「ベイサイドネットブランド製品」や、有名ブランドの既製品(完成品)なども販売していく。
  • ハードウエア製品だけでなく、「ゆとり」と「くつろぎ」のある、生活の糧となるような良質な音楽ソフトなどを厳選し、併せて販売していく。

抗菌イヤーピース商品神奈川なでしこブランド認定授賞式の吉川氏

抗菌イヤーピース(写真左)は、2013年度「神奈川なでしこブランド(KNB)」に認定されました。
認定受賞式での吉川氏(写真右)

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